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空調配管の水力計算実務ガイド(SHASE準拠)

空調冷温水システムの配管設計において、水力計算は適切な管径・ポンプ選定・バランシングバルブ設定のすべての基礎となります。本ガイドでは、SHASE-S 206「空調用配管設計基準」に準拠した実務的な計算フローを、流量算定から最不利回路の特定、ポンプ揚程の確定まで順を追って解説します。

1. 水力計算の目的と設計フロー

空調配管の水力計算とは、各末端機器(FCU、AHU、コイルなど)に必要な流量を確保し、かつポンプが過大・過小にならないよう配管系全体の圧力バランスを設計するプロセスです。

実務上の計算フローは以下の順序で進めます。

  1. 熱負荷から各機器の必要流量を算定する
  2. 各区間の流量を積算し、管径を仮決定する
  3. 各区間の圧力損失を計算する
  4. 最不利回路を特定し、ポンプ揚程を決定する
  5. 各回路のバランシングバルブ設定値を算出する

SHASE-S 206では、この一連のプロセスを「水力計算書」として図面と一緒に提出することが求められており、設計審査の重要な書類となります。

2. 流量の算定

各機器への必要流量Qは、熱負荷と冷温水の温度差から次式で求めます。

Q(m³/h)= P(kW)× 3600 / (ρ × cp × ΔT × 1000)

水の場合、ρ = 1000 kg/m³、cp = 4.186 kJ/(kg·K) を使用します。実務ではこれを簡略化して以下のように表すことが多いです。

Q(L/min)≈ P(kW)× 14.3 / ΔT(℃)

冷水系統では一般にΔT = 5〜7℃、温水系統ではΔT = 10〜15℃が標準的な設計温度差です。例えば冷水系統でΔT = 6℃、熱負荷20kWの機器の場合、Q ≈ 20 × 14.3 / 6 ≈ 47.7 L/min となります。

3. 管径の仮決定

管径はSHASE-S 206の推奨流速範囲に収まるよう選定します。

配管区間 推奨流速(m/s) 備考
ヘッダー〜主管 1.5〜2.5 騒音・振動に注意
主管〜枝管 1.0〜2.0 最も一般的な範囲
枝管〜末端機器 0.5〜1.5 機器接続部は低めに
ポンプ吸込管 0.5〜1.0 キャビテーション防止

管内径d(m)は流量Q(m³/s)と流速v(m/s)から d = √(4Q / πv) で求め、これを超える最小のJIS標準管径を選択します。一般的な冷温水配管では25A〜200Aの範囲が多用されます。

4. 各区間の圧力損失計算

各区間の圧力損失は、直管損失と局部損失の合計で求めます。

4.1 直管損失(ダルシー・ワイスバッハ式)

ΔPf = λ × (L / D) × (ρv² / 2)

ここでλは摩擦係数(鋼管ではおよそ0.02〜0.03)、Lは管長(m)、Dは管内径(m)、ρは流体密度(kg/m³)、vは流速(m/s)です。単位長あたり損失の目安は0.1〜0.3 kPa/mが経済的な設計範囲とされています。

4.2 局部損失

曲がり・分岐・バルブ・機器入口出口などの局部損失は、損失係数K(ゼータ値)または等価管長Leで評価します。

ΔPm = K × (ρv² / 2)

主な管継手のK値の目安:90°ロングエルボ 0.3〜0.5、ティー合流 0.5〜1.0、バタフライバルブ全開 0.2〜0.5、ゲートバルブ全開 0.1〜0.2、ストレーナ 2〜5。

実務では局部損失を直管損失の30〜50%として見積もる簡便法も用いられますが、バルブや機器が多い系統では個別計算が必要です。

4.3 機器の圧力損失

FCU、AHUコイル、熱交換器などの機器には固有の圧力損失があります。メーカーカタログの設計流量時の損失値を用います。一般的な目安として、FCUコイル 15〜30 kPa、AHUコイル 20〜50 kPaが参考値です。

5. 最不利回路の特定とポンプ揚程

全回路の圧力損失を計算したら、最も損失の大きい回路(最不利回路)を特定します。ポンプの必要揚程H(m)は次式で求めます。

H = ΔPmax(Pa)/ (ρ × g) × 余裕率

または

H(m)= ΔPmax(kPa)× 0.102 × 余裕率

SHASE基準では揚程余裕率として1.1〜1.2を推奨しています。これは配管経年変化による摩擦増加やバルブの設定マージンを考慮したものです。

6. バランシングバルブ設定の計算

最不利回路以外の回路は、設計流量を超えて流れすぎないようバランシングバルブで余剰圧力を吸収します。各回路のバランシングバルブ必要差圧ΔPBVは次のように求めます。

ΔPBV = ΔPmax − ΔP回路i

この差圧をバランシングバルブのKv値(流量係数)に変換し、バルブ開度を設定します。設定後は実運転でTA(テスト・アンド・バランス)測定を行い、実流量が設計値の±10%以内に収まることを確認します。

7. よくある計算ミスと対策

ミス1:機器の圧力損失を忘れる — FCUやAHUコイルの損失は回路全体の10〜30%を占めることがあります。メーカーデータを必ず確認してください。

ミス2:同時使用率を考慮しない — 全末端機器が同時に全開運転することは稀です。ビル空調では一般に70〜85%の同時使用率を設計流量に反映します。

ミス3:変流量(VWV)システムで定流量前提の計算をする — 変流量システムではバイパス弁や差圧制御弁の特性を考慮した動的解析が必要です。定流量の計算をそのまま使うと、部分負荷時にポンプが過大になります。

ミス4:往き管と還り管の双方を忘れる — 閉回路の場合、往き管と還り管の両方の損失を積算します。片道だけの計算は揚程を半分に誤算するため注意が必要です。

8. よくある質問(FAQ)

Q1: 空調配管の推奨流速はどのくらいですか?
A1: SHASE-S 206では、冷温水配管の推奨流速を主管1.0〜2.5m/s、枝管0.5〜1.5m/sとしています。流速が高すぎると騒音・振動・腐食の原因になり、低すぎるとスケール・スライム付着のリスクが増します。一般的な設計では主管1.5〜2.0m/sが多く採用されます。

Q2: 最不利回路とはどこを指しますか?
A2: 最不利回路とは、ポンプから末端機器までの経路の中で圧力損失が最も大きい回路を指します。通常、最も遠い末端機器や最も多くのバルブ・機器を通る経路がこれに該当します。ポンプの揚程はこの最不利回路の損失を基準に選定し、他の回路はバランシングバルブで絞って調整します。

Q3: リバースリターン方式とダイレクトリターン方式の違いは何ですか?
A3: ダイレクトリターン方式は配管長が短くコスト面で有利ですが、各機器への往復配管長が異なるため、バランス調整が複雑になります。リバースリターン方式は往き配管と還り配管の合計長さを各系統で等しくすることで自然にバランスが取りやすくなりますが、配管量が増えます。大規模システムや精密な流量バランスが必要な場合はリバースリターンが推奨されます。

Q4: バランシングバルブの設定はどのように行いますか?
A4: バランシングバルブは、最不利回路以外の回路が過剰流量にならないよう絞る役割を担います。設定手順は、①各回路の設計流量と圧力損失を計算する、②最不利回路の損失を基準に各回路の余剰圧力を算出する、③余剰圧力をバランシングバルブで吸収する開度を設定する、④実運転後にTAで実測値に基づき微調整する、という流れになります。

Q5: 冷温水配管の管径はどのように選定しますか?
A5: 管径選定は流量と許容流速から行います。流量Q(m³/h)= 熱負荷P(kW)÷(ρ×cp×ΔT)で求め、断面積A = Q/vから管内径を計算します。実務ではJIS規格の標準管径(25A、32A、40A、50A、65A、80A、100A…)から選択します。圧力損失は0.1〜0.3kPa/m程度に収まるよう管径を選ぶのが一般的です。

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