ダクト静圧計算と風量バランス — 等摩擦法・等速法の選び方
空調ダクト設計において、静圧計算の精度はファン選定・騒音・エネルギー消費のすべてに直結します。本ガイドでは、SHASE-S 100「空調設備設計基準」に基づく等摩擦法と等速法の使い分け、最不利系統の特定方法、VAVシステムでの静圧制御、風量バランス調整の実務手順を解説します。
1. ダクト設計の2つの手法:等摩擦法と等速法
ダクト断面積(サイズ)の決定には主に2つの手法があります。
1.1 等摩擦法(Equal Friction Method)
等摩擦法は、ダクト単位長さあたりの圧力損失(Pa/m)を全区間で一定に保つようにダクトサイズを決定する手法です。SHASE-S 100では一般空調向けに 0.8〜1.2 Pa/m を推奨しています。
- 利点:計算が簡便で経験的な設計ツール(ダクト計算盤・ノモグラム)が使いやすい
- 欠点:分岐後に各系統の全損失が異なるため、風量バランス調整(ダンパ操作)が必要
- 適用:中小規模の一般オフィス・商業施設、定風量(CAV)システム
1.2 等速法(Equal Velocity Method)
等速法は全区間で風速を一定に保つ手法で、下流に向かって風量が減少するにつれてダクト断面積も小さくします。
- 利点:騒音・振動の均一化、長距離搬送路での乱流制御に有利
- 欠点:末端で風速が下がりすぎると自浄作用が失われる(粒子堆積リスク)
- 適用:塗装ブース・工場排気・特定用途ダクトなど風速管理が優先される場合
2. 推奨風速の目安(SHASE-S 100)
| ダクト区間 | 推奨風速(m/s) | 最大許容(m/s) |
|---|---|---|
| ファン接続主ダクト | 8〜12 | 15 |
| 主ダクト(一般空調) | 6〜10 | 12 |
| 枝ダクト | 4〜7 | 9 |
| 吹出口直前 | 2.5〜4.0 | 5 |
| 吸込口(グリル) | 1.5〜3.0 | 4 |
出典:SHASE-S 100「空調設備設計基準」付表
3. 静圧損失の計算
ダクト各区間の静圧損失ΔP(Pa)は直管損失と局部損失の合計です。
3.1 直管損失
ΔPf = λ × (L / Dh) × (ρv² / 2)
ここでλは摩擦係数(亜鉛鉄板では約0.02〜0.025)、Lは管長(m)、Dhは水力直径(m)、ρは空気密度(≈1.2 kg/m³)、vは風速(m/s)です。矩形ダクトの水力直径は Dh = 2ab/(a+b) で求めます。
3.2 局部損失
エルボ・分岐・縮拡大などの局部損失は、局部抵抗係数ζ(ゼータ)を用いて計算します。
ΔPm = ζ × (ρv² / 2)
| 管継手・機器 | ζ の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 90°矩形エルボ(ベーンなし) | 1.0〜1.5 | アスペクト比により変動 |
| 90°矩形エルボ(ベーン付き) | 0.1〜0.3 | ガイドベーン効果大 |
| 90°スパイラル円形エルボ R/D=1.5 | 0.17〜0.22 | — |
| T分岐(直進側) | 0.05〜0.15 | — |
| T分岐(分岐側) | 0.5〜1.0 | 流速比による |
| 急縮小(断面積比 0.5) | 0.5 | — |
| 吹出口(ライン型ディフューザー) | 2〜5 | メーカーデータ優先 |
4. 最不利系統の特定とファン静圧
ファン静圧の選定は、すべての吹出口への経路の中で圧力損失が最大となる「最不利系統」を基準にします。
- ファンから各吹出口までのすべての経路について、直管損失 + 局部損失を積算する
- 機器(フィルタ・コイル・消音チャンバー・VAVボックスなど)の抵抗値を加算する
- 最大損失の経路が最不利系統。その合計損失が必要ファン静圧の下限となる
- 余裕率(一般に10〜15%)を乗じてファン静圧を決定する
最不利系統以外の分岐では、余剰静圧をダンパで吸収することで全系統のバランスを確保します。
5. VAVシステムの静圧制御設計
VAV(変風量)システムでは部分負荷時にVAVボックスが絞られ、ダクト内静圧が上昇します。これを静圧センサーでモニタリングし、ファンのインバータ制御で静圧一定制御(または最適静圧リセット制御)を行います。
- センサー位置:最不利系統のVAVボックス手前1〜2m が理想。ファン近くに設置すると末端静圧が過不足になりやすい
- 設定静圧値:最不利VAVボックスの全開時必要静圧 + 配管損失 = 通常80〜200 Pa
- 最適静圧リセット:すべてのVAVが80%以上開度のとき静圧設定値を下げることで年間電力を15〜30%削減できる(ASHRAE Guideline 36準拠)
6. 風量バランス調整の手順
施工後のTA(Testing and Adjusting)では、設計流量±10%以内を目標に以下の順序で調整します。
- 最不利系統の吹出口を全開にし、他のダンパは仮に全開設定で起動
- 全系統の風量を実測し、設計値との乖離を記録
- 最不利系統を基準として、他の系統を順次絞り込む(Proportional Method)
- 全体の風量が設計値に収まっていることを確認し、最終記録を作成
7. よくある設計ミス
ミス1:エルボにガイドベーンを設置しない — 矩形ダクトのエルボでベーンなしのζは1.0〜1.5ですが、ガイドベーン付きにすると0.1〜0.3まで低減できます。特に大流量の主ダクト折り返し部でのベーン省略は、ファン静圧を過小評価する原因になります。
ミス2:フィルタ・コイルの汚損後圧力損失を未計上 — 新品時の圧力損失のみでファンを選定すると、フィルタ満載時に風量が設計値を下回ります。設計時には終末差圧(フィルタ交換時期の最大差圧)を考慮した値を使います。
ミス3:静圧センサーを主ダクト起点に設置 — ファン近くに静圧センサーを設置すると、末端まで送るのに必要な静圧が確保できず、遠端の吹出口で風量不足が発生します。センサーは最不利系統の2/3〜3/4の位置に設置するのが理想です。
8. FAQ
Q1: 等摩擦法での推奨圧力勾配はどのくらいですか?
A1: SHASE-S 100では一般的な空調ダクトの等摩擦法における推奨圧力勾配を0.8〜1.2Pa/mとしています。低騒音が求められる住宅・客室では0.5〜0.8Pa/m、工場などでは1.5〜2.0Pa/mまで許容される場合があります。
Q2: 最不利系統はどのように特定しますか?
A2: ファンから各吹出口までのすべての経路の静圧損失を計算し、最大値となる経路が最不利系統です。通常、最も遠い吹出口や最も多くのエルボ・分岐を経由する経路が候補です。
Q3: VAVシステムでの静圧制御はどのように行いますか?
A3: 最不利系統の末端近くに静圧センサーを設置し、設定値(通常80〜200Pa)を保つようにファンのインバータを制御します。最適静圧リセット制御を採用すると年間電力を15〜30%削減できます。
Q4: ダクトの騒音(風切り音)を抑えるにはどうすればよいですか?
A4: 居室吹出口での推奨風速は2.5〜4.0m/sです。主ダクトでは6〜10m/s以下を維持し、急激な断面変化を避けることで乱流騒音を低減できます。エルボにはガイドベーンを設置し、消音チャンバーを吹出口手前に設けることも有効です。
Q5: 矩形ダクトと円形ダクトはどう使い分けますか?
A5: 円形ダクトは圧力損失が少なく気密性も高いため長距離・大流量の主ダクトに向いています。矩形ダクトは天井懐への収まりが良く、分岐・変形が容易なため末端枝ダクトに多用されます。スパイラルダクトは施工品質が安定しており主ダクトへの採用が増えています。