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ポンプ揚程ガイド — 配管摩擦損失と必要動力の計算方法

空調用冷温水ポンプや給湯ポンプの選定において、正確な揚程計算はシステムの信頼性とエネルギー効率を左右する極めて重要な設計プロセスです。本ガイドでは、ダルシー・ワイスバッハ式による摩擦損失計算から局部損失の評価、静高差の考慮、ポンプ動力の算出方法まで、SHASE基準に準拠した実践的な計算手法を解説します。

1. ポンプ揚程とは

ポンプ揚程とは、ポンプが流体に与える単位重量あたりのエネルギー増加量を水柱メートル(m)で表した値です。単に配管を水が上がる高さ(静高差)だけでなく、配管内の摩擦損失、バルブや継手類の局部損失、機器類の圧力損失など、システム全体の抵抗を克服するために必要なエネルギーの総和を示します。

ポンプ揚程H(m)は、大きく分けて以下の3要素から構成されます。

H = Hf + Hm + Hs

ここで、Hfは配管直管部の摩擦損失(m)、Hmは局部損失(バルブ・継手類)(m)、Hsは静高差(m)です。閉回路(冷温水循環系)では静高差は相殺されるため、Hs = 0となります。

SHASE-S 212「ポンプ設備設計基準」では、揚程計算の手法とポンプ選定における留意点が規定されています。特に、計算で求めた揚程に対して10〜20%の余裕率を見込むことが標準とされており、この余裕は配管の経年変化による摩擦係数の増加や、バルブ開度の調整幅を考慮した実務上の安全率です。

2. ポンプ揚程計算の主なパラメータ

正確な揚程計算には以下のパラメータを収集し、整理する必要があります。

3. ポンプ揚程の計算方法

ポンプ揚程の計算は、摩擦損失の算定を中心に、以下の手順で進めます。

3.1 直管部の摩擦損失(ダルシー・ワイスバッハ式)

直管部の摩擦損失Hfは、ダルシー・ワイスバッハ式を用いて計算します。

Hf = f × (L / d) × (v² / (2g))

ここで、fは摩擦係数(無次元)、Lは管長(m)、dは管内径(m)、vは流速(m/s)、gは重力加速度(9.81m/s²)です。摩擦係数fは、レイノルズ数Re = v×d/νと管相対粗さε/dからムーディ線図またはコールブルックの式により求めます。

3.2 局部損失の計算

局部損失Hmは、各継手やバルブの損失係数Kを用いて以下の式で計算します。

Hm = ΣK × (v² / (2g))

実務では、局部損失を等価管長法で評価することも一般的です。この方法では、各継手を相当する直管長さに換算し、総合的な摩擦損失として計算します。SHASE-S 211では、継手1個あたりの等価長さの目安値が管種別に規定されています。

3.3 静圧の考慮

閉回路(冷温水循環系)では、往き管と還り管の静圧が相殺されるため、静高差は揚程に影響しません。一方、開放回路(冷却塔循環や給水系統)では、静高差Hsを直接加算します。

3.4 ポンプ動力の計算

ポンプの軸動力P(W)は以下の式で求められます。

P = ρ × g × H × Q / η

ここで、Qは流量(m³/s)、ηはポンプ効率です。実用単位ではP(kW)= 0.163 × Q(m³/min)× H(m)/ η として計算することも多いです。モーター出力は、軸動力にさらに余裕率(1.1〜1.2)を乗じて選定します。

4. 配管径別の摩擦損失目安表

以下の表は、一般的な鋼管(Sch.40)を対象に、清水(20℃)における単位長さあたりの摩擦損失を示したものです。設計の初期検討における参考値として活用してください。

呼び径 内径(mm) 流速1.0m/s時
損失(kPa/m)
流速1.5m/s時
損失(kPa/m)
流速2.0m/s時
損失(kPa/m)
流速2.5m/s時
損失(kPa/m)
25A(1B) 27.2 0.55 1.18 2.05 3.15
32A(1¼B) 35.7 0.38 0.82 1.42 2.18
40A(1½B) 41.8 0.30 0.65 1.13 1.74
50A(2B) 53.0 0.22 0.47 0.82 1.26
80A(3B) 80.7 0.12 0.26 0.45 0.69
100A(4B) 105.3 0.09 0.19 0.33 0.51
150A(6B) 156.1 0.05 0.11 0.19 0.29
200A(8B) 207.8 0.04 0.08 0.14 0.21

上表の損失値は、鋼管(管内面粗さε=0.046mm)を想定した計算値です。銅管や樹脂管では管面が滑らかなため、同じ流速でも損失は20〜30%小さくなります。また、水温が高くなるほど粘度が低下し、摩擦損失は減少します。

5. ポンプ揚程計算でよくある間違い

間違い1:閉回路で静高差を加算する — 冷温水循環系のような閉回路では、往き管と還り管の静圧がバランスするため、静高差は揚程計算に含めません。静高差を誤って加算すると、過大なポンプ選定につながります。

間違い2:摩擦係数fを管径によらず一定と仮定する — 摩擦係数fはレイノルズ数と管粗さに依存するため、流速や管径が変われば変化します。すべての区間で同じf値を使うのではなく、各区間の流速とレイノルズ数に応じた適切なf値を用いる必要があります。

間違い3:局部損失の過小評価 — 継手類やバルブの局部損失は、全損失の30〜60%を占めることがあります。特に、ストレーナや逆止弁、バタフライバルブは損失係数が大きいため、見落としがちな項目です。SHASE-S 211では、局部損失を等価管長換算で評価する方法が推奨されています。

間違い4:ポンプの余裕率を過大にする — 計算揚程に対して余裕率を1.5倍以上とすると、選定ポンプの運転点が設計点から大きく乖離し、モーター過負荷やキャビテーションの原因となります。SHASE基準では余裕率は1.1〜1.2が標準です。

間違い5:複数系統の同時運転を考慮しない — 複数の負荷系統がある場合、各系統のバルブ開度や運転状態によりシステム全体の抵抗曲線が変化します。部分負荷時や系統切替時の流量変化も考慮した揚程設定が必要です。

6. ポンプ揚程計算に関するFAQ

Q1: ポンプ揚程が実際より大きく計算されるとどうなりますか?
A1: 揚程が過大に計算されると、選定されたポンプの実際の運転点が設計点から右側(大流量側)にシフトします。ポンプは大流量域でモーター過負荷となる可能性があり、またキャビテーションのリスクが高まります。さらに、バルブで絞って流量調整するとエネルギーロスが発生します。SHASE基準では、計算揚程に10〜20%の余裕を見ることを推奨しています。

Q2: ダルシー・ワイスバッハ式の摩擦係数fはどのように求めますか?
A2: 摩擦係数fはレイノルズ数Reと管内面粗さε/dに依存します。層流(Re < 2300)ではf = 64/Reの理論式が成立します。乱流ではムーディ線図から読み取るか、コールブルックの式で計算します。SHASE-S 211では、実用的な簡易式として、鋼管でf=0.02〜0.03程度の値を推奨しています。より正確な計算には、各管種に対応した実験式を使用する必要があります。

Q3: 同一系統に複数のポンプを設置する場合の揚程計算はどうすればよいですか?
A3: 並列運転の場合、各ポンプの揚程は同一であり、合計流量は各ポンプの流量の和となります。ただし、並列台数が増えると1台あたりの流量が減少し、ポンプ効率が低下するため、台数の最適化が必要です。直列運転の場合、合計揚程は各ポンプの揚程の和、流量は同一となりますが、後段のポンプは前段の圧力に耐える設計が必要です。

Q4: 静高差が揚程計算に与える影響はどの程度ですか?
A4: 静高差は閉回路(冷温水循環系)では往きと還りの静圧が相殺されるため、基本的に考慮不要です。しかし、開放回路(冷却水循環、給水ポンプ)では静高差が直接揚程に加算されます。例えば、建物高さ50mの冷却塔循環系では、静高差60m(余裕含む)分の揚程が必要となり、これは摩擦損失を超える支配的な要因となることがあります。

Q5: ポンプの必要動力はどのように計算しますか?
A5: ポンプの軸動力P(W)は式P = ρgHQ/ηで表されます。ここでρは流体密度(kg/m³)、gは重力加速度(9.81m/s²)、Hは全揚程(m)、Qは流量(m³/s)、ηはポンプ効率です。実用的な単位では、P(kW)= 0.163 × Q(m³/min)× H(m)/ ηと表されることもあります。ポンプ効率は一般的に0.6〜0.85程度であり、小容量ポンプほど効率が低くなる傾向にあります。

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