ダクトサイズガイド
本ガイドでは、SHASE-S 010(空気調和・衛生工学会規格「ダクトの設計基準」)に基づくHVACダクトのサイジング方法を詳しく解説します。推奨風速、主管と枝管の風速基準、円形・矩形ダクトの選定方法を理解し、効率的なダクトシステム設計のための知識を提供します。
ダクトサイジングとは
ダクトサイジングとは、空調システムにおいて必要な風量を搬送するためのダクトの断面寸法を決定するプロセスです。適切なダクトサイジングは、空調システムの性能、エネルギー効率、騒音レベル、そしてコストに直接的な影響を与える極めて重要な設計要素です。
ダクトサイジングの目的は以下のとおりです。
第一に、必要な風量を確保することです。各室の冷暖房負荷に基づいて決定された設計風量が、全ての吹出し口に適切に配分されるようにダクトシステムを設計する必要があります。風量不足は空調能力の不足を引き起こし、快適性を損なう原因となります。
第二に、圧力損失を適切な範囲に抑えることです。圧力損失が大きすぎると、ファンの消費電力が増加し、ランニングコストの上昇につながります。また、過大な圧力損失はシステム全体の性能低下を招く可能性があります。
第三に、騒音を許容範囲内に抑えることです。ダクト内の風速が高すぎると、空気流れに伴う騒音(風切り音)や、ダクト壁面の振動による騒音が発生します。特に事務所や住宅では、騒音レベルは快適性に直結する重要な要素です。
SHASE-S 010(空気調和・衛生工学会規格「ダクトの設計基準」)は、日本におけるダクト設計の標準的な基準を定めた規格です。ダクトのサイジング方法、推奨風速、圧力損失の計算方法、施工基準などが詳細に規定されており、日本の建築慣行や気候条件に適合した設計を可能にします。
主な入力パラメータ
ダクトサイジングに必要な主なパラメータは以下のとおりです。
風量(Q)
風量は、冷暖房負荷計算に基づいて決定される設計風量であり、単位はm³/h(またはCMH)で表されます。風量は以下の式で算出されます。
Q = 3600 × q / (ρ × cp × ΔT)
ここで、qは冷暖房負荷(kW)、ρは空気密度(約1.2 kg/m³)、cpは空気の比熱(約1.0 kJ/kgK)、ΔTは吹出し温度と室内温度の温度差(K)です。一般的な空調システムでは、ΔTを8〜12Kとして設計することが多いです。
ダクト形状(円形/矩形)
ダクトには円形ダクトと矩形ダクトの二種類があり、それぞれに利点と欠点があります。円形ダクトは空気抵抗が小さく、同じ断面積でより多くの風量を流せますが、天井内のスペースを効率的に使うのが難しい場合があります。矩形ダクトは天井内の限られたスペースに設置しやすく、建築意匠との整合性を取りやすいという利点があります。
推奨風速(v)
推奨風速はダクトの種類(主管/枝管)や建物用途によって異なります。SHASE-S 010では、用途別に推奨風速が定められており、これを基にダクト断面積を算出します。
ダクト長さと経路
ダクトの全長、曲がりの数、分岐の数、縮小・拡大部などの詳細は、圧力損失の計算に必要です。これらはダクトシステムの全体設計に影響を与えるため、可能な限り正確に設定する必要があります。
計算方法の解説
SHASE-S 010に基づくダクトサイジングは、以下の手順で行います。
ステップ1: 必要断面積の計算
必要なダクト断面積A(m²)は、設計風量Q(m³/h)と選定風速v(m/s)から以下の式で算出します。
A = Q / (v × 3600)
ここで3600は、時間単位の風量(m³/h)を秒単位(m³/s)に変換するための係数です。
ステップ2: ダクト寸法の計算
算出された断面積Aから、円形ダクトまたは矩形ダクトの寸法を求めます。
円形ダクトの直径 d(mm):
d = √(4A / π) × 1000
矩形ダクトの寸法(例:高さを幅の半分とした場合):
幅 w = √(2A) × 1000(mm)
高さ h = w / 2(mm)
矩形ダクトの場合は、アスペクト比(幅/高さ)が1:1に近いほど圧力損失が小さくなりますが、スペース制約により2:1〜4:1程度のアスペクト比で設計されることが一般的です。SHASE-S 010では、アスペクト比は最大4:1までとすることが推奨されています。
ステップ3: 圧力損失の確認
算出したダクトサイズを用いて、システム全体の圧力損失を計算します。圧力損失は直管部の摩擦損失と、曲がり・分岐・縮小部などの局部損失の合計です。SHASE-S 010では、ダクトサイジング表または線図を用いた簡易計算方法が提供されています。
直管部の摩擦損失:
ΔPf = f × (L / D) × (ρ × v² / 2)
ここでfは摩擦係数(ダクト材質とレイノルズ数に依存)、Lは管長(m)、Dは管径(m)、ρは空気密度(kg/m³)、vは風速(m/s)です。
局部損失:
ΔPl = ζ × (ρ × v² / 2)
ここでζ(ゼータ)は局部抵抗係数であり、曲がり(一般的に0.2〜0.5)、分岐(0.3〜0.8)、縮小(0.1〜0.3)、拡大(0.2〜0.5)など、形状に応じて異なる値がSHASE-S 010に定められています。
計算例
事務所の主管において、風量3,000 m³/hを搬送する場合のダクトサイジング例を示します。SHASE-S 010に基づき、事務所主管の推奨風速8 m/sを適用します。
必要断面積 A = 3,000 / (8 × 3600) = 0.1042 m²
円形ダクトの場合:d = √(4 × 0.1042 / π) × 1000 = 約364 mm → 規格品の400 mmを選定
矩形ダクトの場合(アスペクト比2:1):幅 w = √(2 × 0.1042) × 1000 = 約456 mm、高さ h = 228 mm → 450×225 mmの規格品を選定
このように、同じ風量でもダクト形状によって寸法が異なるため、設置スペースやコストを考慮して最適な形状を選択します。
SHASE-S 010の風速基準
SHASE-S 010では、建物用途とダクトの種類(主管/枝管)に応じて推奨風速が定められています。適切な風速を選択することで、騒音と圧力損失のバランスが取れた設計が可能になります。
用途別推奨風速
| 建物用途 | ダクト区分 | 推奨風速(m/s) | 最大風速(m/s) | 騒音レベル目安 |
|---|---|---|---|---|
| 事務所 | 主管 | 8.0 | 10.0 | NC-35〜40 |
| 事務所 | 枝管 | 5.0 | 6.5 | NC-30〜35 |
| 事務所 | 吹出し口接続部 | 3.0 | 4.0 | NC-25〜30 |
| 住宅 | 主管 | 5.0 | 6.0 | NC-25〜30 |
| 住宅 | 枝管 | 3.0 | 4.0 | NC-20〜25 |
| 住宅 | 吹出し口接続部 | 2.0 | 2.5 | NC-20以下 |
| 店舗 | 主管 | 7.0 | 9.0 | NC-35〜40 |
| 店舗 | 枝管 | 5.0 | 6.0 | NC-30〜35 |
| 病院 | 主管 | 6.0 | 7.5 | NC-30〜35 |
| 病院 | 枝管 | 4.0 | 5.0 | NC-25〜30 |
円形ダクト標準寸法
| 呼び径(mm) | 断面積(m²) | 風量(m³/h)@5m/s | 風量(m³/h)@8m/s |
|---|---|---|---|
| 100 | 0.0079 | 141 | 226 |
| 150 | 0.0177 | 318 | 509 |
| 200 | 0.0314 | 565 | 905 |
| 250 | 0.0491 | 884 | 1,414 |
| 300 | 0.0707 | 1,272 | 2,035 |
| 350 | 0.0962 | 1,732 | 2,771 |
| 400 | 0.1257 | 2,262 | 3,619 |
| 450 | 0.1590 | 2,862 | 4,580 |
| 500 | 0.1964 | 3,534 | 5,655 |
| 600 | 0.2827 | 5,089 | 8,143 |
矩形ダクト標準寸法
| 幅×高さ(mm) | 断面積(m²) | 風量(m³/h)@5m/s | 風量(m³/h)@8m/s |
|---|---|---|---|
| 200×150 | 0.030 | 540 | 864 |
| 300×200 | 0.060 | 1,080 | 1,728 |
| 400×250 | 0.100 | 1,800 | 2,880 |
| 500×300 | 0.150 | 2,700 | 4,320 |
| 600×350 | 0.210 | 3,780 | 6,048 |
| 700×400 | 0.280 | 5,040 | 8,064 |
| 800×450 | 0.360 | 6,480 | 10,368 |
| 1000×500 | 0.500 | 9,000 | 14,400 |
ASHRAE/GBとの比較表
各国のダクトサイジング基準には違いがあります。以下にSHASE-S 010(日本)、ASHRAE(アメリカ)、中国GB(国家基準)の主要な相違点を比較します。
| 項目 | SHASE-S 010(日本) | ASHRAE(アメリカ) | GB 50243(中国) |
|---|---|---|---|
| 単位系 | SI単位(m, m³/h) | ヤードポンド法(ft, CFM) | SI単位(m, m³/h) |
| 事務所主管風速 | 8 m/s | 5〜8 m/s | 6〜9 m/s |
| 事務所枝管風速 | 5 m/s | 3〜5 m/s | 4〜6 m/s |
| 住宅主管風速 | 5 m/s | 3〜5 m/s | 4〜6 m/s |
| ダクト材質 | 亜鉛鉄板(SGP)主体 | 亜鉛鉄板・グラスファイバー | 亜鉛鉄板・樹脂製 |
| 圧力損失計算 | ダクトサイジング表 | ダクトサイジング線図(ASHRAE Fundamentals) | 等圧損失法(摩擦損失線図) |
| 最大アスペクト比 | 4:1 | 4:1 | 4:1 |
| 漏気基準 | SHASE-S 010で規定 | SMACNA基準 | GB 50243で規定 |
SHASE-S 010とASHRAEでは、推奨風速に違いがあります。日本の基準の方が高めの風速を許容しているのは、日本の建築における天井スペースが限られているという実情を反映しています。また、圧力損失の計算方法についても、SHASE-S 010は簡易的なダクトサイジング表を提供しているのに対し、ASHRAEはより詳細な計算手法を推奨しています。
よくある間違い
ダクトサイジングにおいて、以下のような間違いが頻繁に見られます。
1. 摩擦損失を無視した単純断面積計算
最も多い設計ミスは、ダクト内の摩擦損失を無視して単純に断面積のみでサイジングすることです。長いダクト経路や多くの曲がり・分岐がある場合、摩擦損失による圧力降下が無視できず、末端の吹出し口で風量不足が発生します。SHASE-S 010のダクトサイジング表には摩擦損失の影響が織り込まれているため、これを活用することが推奨されます。
2. 風速過大による騷音問題
ダクトサイズを小さくしたいという意図から、推奨風速を超えた設計を行うケースがあります。風速が高すぎると、空気流れに伴う風切り音や、ダクト壁面の振動による騒音が発生します。特に住宅や静粛性が求められる施設では、SHASE-S 010の推奨風速を厳守することが重要です。
3. 風速過小によるスペース不足
逆に、風速を低く設定しすぎるとダクトサイズが大きくなり、天井スペースに収まらないケースが発生します。特に既存建築物への後付け空調では、ダクトスペースの確保が難しい場合が多く、適切な風速設定とダクトレイアウトの工夫が必要です。
4. 分岐部の損失計算の省略
分岐部での圧力損失は無視できない大きさであり、特に45度分岐と90度分岐では損失係数が大きく異なります。分岐部の損失を省略すると、実際のシステム圧力損失を過小評価することになり、ファン選定や風量バランスに悪影響を及ぼします。
5. ダクト材質の違いを無視
亜鉛鉄板ダクトと樹脂製ダクト、グラスファイバーダクトでは表面粗さが異なり、摩擦係数にも差が生じます。材質の違いを無視して同一の摩擦損失線図を使用することは、誤った圧力損失計算につながります。
6. 吹出し口静圧の未考慮
ダクト末端の吹出し口には、所定の静圧が必要です。この静圧を考慮せずにダクトサイジングを行うと、吹出し口で必要な風量が得られない可能性があります。SHASE-S 010では、吹出し口の静圧として一般的に20〜50 Pa程度を確保することを推奨しています。
7. 将来の増設を考慮しない設計
将来のシステム拡張や用途変更を見越した余裕を持たない設計は、後日の改修コスト増加につながります。特に主管のダクトサイズには、ある程度の余裕を持たせることが望ましいです。
FAQ
Q1: 円形ダクトと矩形ダクトのどちらを選ぶべきですか?
A1: 円形ダクトは空気抵抗が小さく、同じ断面積でより多くの風量を流せるため、圧力損失の観点からは優れています。一方、矩形ダクトは天井内の限られたスペースに設置しやすく、建築意匠との整合性を取りやすいという利点があります。一般的に、主管には円形ダクト、スペース制約のある枝管には矩形ダクトが用いられることが多いです。SHASE-S 010では両方のサイジング方法を規定しています。
Q2: ダクト内の推奨風速はどれくらいですか?
A2: SHASE-S 010では、事務所の主管で8 m/s、枝管で5 m/s、住宅の主管で5 m/s、枝管で3 m/sを推奨しています。ASHRAEでは事務所主管で5〜8 m/s、枝管で3〜5 m/s、中国GBでは主管6〜9 m/s、枝管4〜6 m/sとなっており、各国の基準に若干の違いがあります。風速が高すぎると騒音や圧力損失が増加し、低すぎるとダクト径が大きくなりコスト増加やスペース問題を引き起こします。
Q3: ダクトサイジングの基本計算式を教えてください。
A3: ダクトサイジングの基本は、必要な断面積A(m²)を風量Q(m³/h)と風速v(m/s)から算出することです。計算式は A = Q / (v × 3600) です。円形ダクトの直径d(mm)は d = √(4A/π) × 1000、矩形ダクトの幅w(mm)は w = √(2A) × 1000(高さを幅の半分と仮定した場合)で求められます。これらの式を用いて、必要な風量に対して適切なダクト寸法を決定します。
Q4: ダクトサイジングで最も多い設計ミスは何ですか?
A4: 最も多い設計ミスは、ダクト内の摩擦損失を無視して単純に断面積のみでサイジングすることです。長いダクト経路や多くの曲がり・分岐がある場合、摩擦損失による圧力降下が無視できず、末端の吹出し口で風量不足が発生します。また、風速を高く設定しすぎて騒音問題が発生するケースや、逆に風速を低く設定しすぎてダクトサイズが大きくなり天井スペースに収まらないケースも頻繁に見られます。さらに、分岐部での損失計算を省略するミスも多く見られます。
Q5: ダクトの圧力損失はどのように計算しますか?
A5: ダクトの圧力損失は、直管部の摩擦損失と局部損失(曲がり、分岐、縮小・拡大等)の合計で計算します。直管部の摩擦損失はダーシー・ワイスバッハの式 ΔP = f × (L/D) × (ρv²/2) で計算され、fは摩擦係数、Lは管長、Dは管径、ρは空気密度、vは風速です。SHASE-S 010付属のダクトサイジング表や線図を用いることで、簡便に圧力損失を算定できます。一般的な設計では、全体の圧力損失が50〜200 Pa程度に収まるようにダクトサイズを決定します。