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冷房負荷ガイド

本ガイドでは、SHASE-S 101(空気調和・衛生工学会規格)に基づく冷房負荷の簡易計算方法を詳しく解説します。単位面積当たり冷房負荷指標、方位補正、窓面積補正、断熱レベルの影響を理解し、効率的な冷房設備選定のための知識を提供します。

冷房負荷とは

冷房負荷とは、夏季に室内を設定温度まで冷却し、かつ設定湿度まで除湿するために除去しなければならない熱量のことを指します。暖房負荷と異なり、冷房負荷には顕熱負荷(温度を下げるために除去する熱)と潜熱負荷(湿度を下げるために除去する熱)の二つの成分があります。

冷房負荷は以下の要素から構成されます。

第一に「外皮熱取得」です。外壁、窓、屋根を通じて外部から室内に入ってくる熱量で、日射による熱取得と外気温度との温度差による熱取得に分けられます。特に窓からの日射熱取得は冷房負荷の最大の要因となることが多く、全体の40〜60%を占めることもあります。

第二に「内部発熱」です。人体からの代謝熱、照明器具の発熱、OA機器(コンピュータ、プリンタ等)の発熱が含まれます。事務所ビルでは内部発熱が冷房負荷の30〜40%を占めることもあります。

第三に「外気負荷」です。換気のために取り入れる外気を室内設定温度・湿度まで冷却・除湿するために必要な熱量です。日本の夏季は高温多湿であるため、外気負荷は全体の冷房負荷の20〜30%を占める重要な要素です。

SHASE-S 101では、これらの冷房負荷を簡易に計算するための単位面積当たり冷房負荷指標(W/m²)が建築用途別に定められています。この指標を用いることで、詳細な計算を行わずとも概略の冷房負荷を把握することが可能です。

主な入力パラメータ

冷房負荷の計算に必要な主なパラメータは以下のとおりです。

床面積と建築用途

冷房対象となる床面積(m²)と建築用途は、単位面積当たりの負荷指標を決定する基本パラメータです。事務所、住宅、店舗、学校など用途によって内部発熱量や使用パターンが異なるため、適切な指標を選択する必要があります。

方位

建物の方位は日射熱取得量に直接影響します。SHASE-S 101では方位別の補正係数が定義されており、西向きと東向きの窓は日射の影響を強く受けるため、補正係数が大きくなります。

断熱レベル

外壁や屋根の断熱性能は、外気温度との温度差による熱取得量に影響します。暖房負荷と同様にU値で評価し、SHASE-S 101の4段階の断熱レベル(劣る1.80〜優秀0.20 W/m²K)から選択します。

窓比率(窓面積÷壁面積)

窓は壁に比べて日射熱取得率が高く、冷房負荷に大きな影響を与えます。窓比率(WWR: Window-to-Wall Ratio)が大きいほど日射熱取得量が増加するため、冷房負荷は増大します。一般的な事務所ビルではWWRが30〜50%程度です。

外気設計温度と室内設定温度

地域ごとの外気設計温度(乾球温度)と設計湿球温度(または相対湿度)を使用します。室内設定温度は一般的に26〜28℃、相対湿度50〜60%とします。日本の夏季の外気設計温度は、東京で31℃、大阪で32℃、那覇で32℃程度です。

計算方法の解説

SHASE-S 101に基づく冷房負荷の簡易計算は、単位面積当たり冷房負荷指標法を用います。この方法は詳細計算に比べて簡便であり、設計初期段階や概略検討に適しています。

基本計算式

Qcooling = A × qbase × Corient × Cwindow × Cinsul

ここで、Aは床面積(m²)、qbaseは用途別の単位面積当たり冷房負荷指標(W/m²)、Corientは方位補正係数、Cwindowは窓面積補正係数、Cinsulは断熱性能補正係数です。

より詳細な計算が必要な場合は、以下の成分別計算法も使用できます。

Qcooling = Qwall + Qwindow + Qroof + Qinternal + Qvent + Qlatent

各成分を個別に計算し合計することで、より精度の高い冷房負荷が得られます。

計算例

東京において、100m²の事務所(南向き、窓比率30%、断熱レベル「平均」)を冷房する場合の計算例を示します。SHASE-S 101の事務所冷房指標qbase = 90 W/m²と仮定します。

方位補正係数:南向き → 0.90

窓面積補正係数:窓比率30% → 1.00(基準値)

断熱性能補正係数:平均レベル → 1.00(基準値)

安全率:10%

Qcooling = 100 × 90 × 0.90 × 1.00 × 1.00 × 1.10 = 約8,910 W → 約8.9 kW

この数値をもとに、約10kW級の冷房機器(空冷ヒートポンプなど)を選定することになります。

SHASE基準のパラメータ詳細

SHASE-S 101における冷房負荷計算の主要パラメータを以下に詳しく解説します。

建築用途別・単位面積当たり冷房負荷指標

建築用途 冷房負荷指標(W/m²) 内部発熱想定(W/m²) 主な熱源
事務所(一般) 90〜120 30〜50 人体、照明、OA機器
事務所(OAフロア) 120〜150 50〜70 高密度OA機器、サーバー
住宅(一般) 60〜90 10〜20 人体、家電製品
店舗 100〜150 40〜60 人体、照明、冷凍冷蔵機器
学校(教室) 70〜100 20〜30 人体、照明、AV機器
病院(病室) 80〜110 20〜40 人体、医療機器
飲食店 150〜250 80〜150 人体、調理機器、排気

方位補正係数

冷房負荷における方位補正係数は、日射熱取得の差異を反映しています。西向きの窓は午後の強い日射を受けるため係数が最も大きく、北向きは日射が少ないため係数が最も小さくなります。

方位 冷房用方位係数 日射強度の特徴
西 1.20 午後の強い日射、外気温ピークと一致
1.15 朝方の日射、外気温は比較的低い
0.90 日射は強いが高度角が高く壁面への入射量は少ない
0.80 直接日射がほとんどない

窓比率補正係数

窓比率(WWR) 補正係数 備考
〜20% 0.85 窓面積が小さい
20〜40% 1.00 標準的な窓面積
40〜60% 1.15 窓面積が大きい
60%以上 1.30 カーテンウォール等

断熱性能補正係数

断熱レベル 補正係数 該当U値(W/m²K)
劣る 1.20 1.80
平均 1.00 0.55
良好 0.85 0.35
優秀 0.75 0.20

安全率

SHASE-S 101では、外気条件の変動や計算の不確実性を考慮して、10%の安全率を推奨しています。最終的な冷房負荷に安全率1.10を乗じて機器選定を行います。ただし、安全率を過大に設定すると機器の過大設計につながり、部分負荷運転効率の低下やコスト増加を招く恐れがあるため、合理的な範囲で適用することが重要です。

潜熱負荷の考慮

冷房負荷において潜熱負荷(除湿負荷)は重要な要素です。日本の夏季は湿度が高く、外気導入に伴う潜熱負荷は顕熱負荷の30〜50%に達することがあります。SHASE-S 101では、外気条件として乾球温度と湿球温度(または相対湿度)の両方を考慮することを推奨しています。全熱負荷(顕熱+潜熱)の考え方を理解し、適切な除湿能力を持つ機器を選定することが重要です。

よくある間違い

冷房負荷計算において、以下のような間違いが頻繁に見られます。

1. 潜熱負荷を無視した計算
最も多い間違いの一つは、顕熱負荷のみを計算して潜熱負荷(除湿負荷)を無視することです。日本の夏季は高温多湿であり、潜熱負荷は全体の冷房負荷の30〜40%を占めるため、これを無視すると大幅な過小評価になります。

2. 内部発熱の過小評価
特に事務所や店舗では、OA機器や照明からの発熱が想定以上に大きいケースが多く見られます。最近のオフィスではデスク当たりの機器台数が増加傾向にあり、内部発熱密度は年々上昇しています。実測値や実際の機器仕様に基づいて内部発熱量を設定することを推奨します。

3. 日射熱取得の過小評価
西向きや東向きの窓からの日射熱取得は冷房負荷の最大の要因となり得ます。遮蔽係数の適切な設定や、外部シェード、Low-Eガラスの効果を正しく評価しないと、実際よりも低い負荷になってしまいます。

4. 安全率の不適切な適用
安全率を過大に設定する(20〜30%)と、必要以上に大きな冷房機器を選定してしまい、初期コストの増加や部分負荷運転効率の低下を招きます。SHASE-S 101が推奨する10%の安全率を基本とし、特別な条件がある場合のみ適切に調整すべきです。

5. 同時使用率の無視
大規模な建築物では全ての室が同時にピーク負荷となることは稀です。同時使用率(多様性係数)を考慮せずに各室のピーク負荷を単純合計すると、過大な中央設備を選定することになります。一般的な事務所ビルでは同時使用率0.7〜0.9程度が適切です。

6. 熱容量の無視
建物の熱容量(蓄熱効果)は冷房負荷のピークを低減する効果があります。重量鉄骨コンクリート造と軽量鉄骨造では熱容量が異なり、ピーク負荷発生時刻と magnitude に影響を与えます。特に住宅では熱容量の影響が顕著であるため、考慮することが望ましいです。

7. 隣接室の影響の無視
隣接する非空調室からの熱移動を無視するケースがあります。特に廊下や倉庫など空調されていないスペースに面した室では、隣接室との温度差による熱取得が発生するため、これを考慮する必要があります。

FAQ

Q1: 冷房負荷と暖房負荷ではどちらが大きいですか?

A1: 一般的には冷房負荷よりも暖房負荷の方が大きくなる傾向があります。ただし、事務所や店舗など内部発熱(人体、照明、OA機器)が多い建物では、冷房負荷が暖房負荷を上回ることもあります。特に日本の夏季は高温多湿であり、潜熱負荷(除湿に必要な熱量)が冷房負荷の30〜40%を占めることが特徴的です。

Q2: 冷房負荷計算における安全率はどの程度必要ですか?

A2: SHASE-S 101では、10%の安全率を推奨しています。これは外気温度の変動、日射のばらつき、使用状況の変化などを考慮したものです。ただし安全率を過大に設定すると、機器が過大設計となり、部分負荷運転効率の低下やコスト増加を招く可能性があるため、合理的な範囲で適用することが重要です。

Q3: 窓の遮蔽係数とは何ですか?

A3: 遮蔽係数(SC: Shading Coefficient)は、窓ガラスと日射遮蔽設備(ブラインド、カーテン、シェード等)の組み合わせによって日射熱取得がどの程度低減されるかを示す指標です。値は0〜1の範囲を取り、0に近いほど遮蔽性能が高いことを意味します。SHASE-S 101では標準的な遮蔽係数として、ブラインドなしの複層ガラスで0.70〜0.85、内部ブラインド付きで0.50〜0.65、外部シェード付きで0.30〜0.45を推奨しています。

Q4: 冷房負荷の計算で最も見落とされがちな要素は何ですか?

A4: 最も見落とされがちな要素は潜熱負荷(除湿負荷)です。日本の夏季は高温多湿であり、外気導入に伴う潜熱負荷が全体の冷房負荷の30〜40%を占めることがあります。また、内部発熱(特にOA機器や照明からの発熱)も見過ごされやすい要素です。さらに、隣接室との温度差による熱移動も見落とされがちなポイントです。

Q5: 断熱性能を高めると冷房負荷は必ず減りますか?

A5: 基本的には断熱性能を高めることで冷房負荷は低減しますが、注意すべき点もあります。高断熱化により室内の熱が逃げにくくなるため、内部発熱(人体、機器、照明)が多い建物では、中間期や夜間に冷房負荷がかえって増加する可能性があります。適切な自然換気計画と組み合わせることが重要です。また、窓の断熱性能向上には日射熱取得率(SHGC)の低いガラスを選定することが効果的です。

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